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「僕の先」(詩集「202.」から)








     僕の先




熱をもたない七月の光が万緑に胸をはる樹の、ずぅっと上から
差しこんでくるそんな日のこと
やわやわと揺れ、見えかくれする、
淡い光色にいきまれて、包みこまれて、
僕は産まれた。
風邪みたく悪いことしかない
生涯治ることはない病を、破られ散らばる色彩の中、
その時たしかに飲まされて ふにゃふにゃの突起へ    
通る違和に、反射で瞬時に、
僕は泣いた。
パルプ・ティッシュと感触を重ねる、ガーゼが粘液を拭う間も、
てっぺんの木の葉を裏返すくらい 響きを震わせ、わめき散らして、
僕は泣いた泣き続けたんだ

はいはいして たっちして あんよして
振ってもらえる下はブラブラで、
内から色どりをドンドコ浮かせる。
吸い込み抑えつけた泣き声が、たまぁにたまにね、喉もとを、
溢れ落ちる だけに 留まったら 二枚重ねの柔らかさを持つ、
何もかも、への好奇心が
湧き出た笑みで僕を進ませる。
震えていた葉の、一枚は 中脈についた小傷から
陽を吸う水を緩やかに吐いた。
僕はこじれた仲間と 取っ組みあって ビビッてチビって
黄ばませ色濃く、塗り付けられる悔しさで、
ものを 不安に握り絞める。
小さいなりにも 勃ったり 硬くなったり と 
絞め続ける間、伸縮が続くと、
奥からすぐにも浮き出す無邪気に 仲間と速攻で始まる馬鹿は
弛んでね、ピュッと出、
布が湿ってね
握りを 打ち上げたりも、したんだよ

卵が先か鶏が先か 。  指の合間を溢れ落ちる
答えを掬い何度もの 議論が未だに続くけれども、
僕の場合は至極簡単だ 。  性器が先で男子が後だ 。
そう疑いもなく生まれてきたんだ 。
父の先から母の胎内へ 咲いた性器が最初にあって
それに全てが引っ付いてきた
たどり着けない 、 笑顔も憎悪も。
粗い、木陰から漏れ出た肢枝に 継ぎ葉は内色を腐乱させる。
斜に来る陽の沈殿が蕾んだ花弁の籠める膝へ 斑紋液を透いていく
一皮むきたいと望んでしまって
輪郭をなくす、脹れた声音に 飲まれた僕は、
父を殴打した。
脇へ寄る皮膚がクシュクシュに
萎んだ感触を握りしめて 憐びんの自己が こよりを浸す。
肉と肉を超える飛沫、は
角質に変わった傷口の中で
赤みを 散らし決して 消える ことが ない

春がすみがたっしたその日だ 。
切り吹かれていく光片が 湿度を縫っては香にたぎり、
身づくろいした花弁の中へ 薄羽が鱗粉を、こぼしていく
僕はシーツの平衡をかぶり 傷つきしかない、縁のふちから
独りを剥がしあえる人、と 汗ばみの変動を吸う望圧へ
触れあう抱きあう受け容れあう
体温を伝え動悸を取り出し 呼気の軋みを、鮮烈に
ともなう慟哭の衝動だ
仔細な血流のほてりに嬉嬉となり 純粋で清らかな後光を背負う、
忘我に求め合う背徳だ
ちぢれた翅は、しべを乱し去って 柔びらに脚鉤のあとが残される
騒ぎたち過ぎた営みの、宿ってしまった暗闇が
ティッシュで 包み取られて進む。
そうなんだ、やはり間違いないんだ
掴む感情の並びに僕は うなずき、抱えこむしかない
あまりに確かなことなんだよ。
侵される人生という病の中で、そうとも
。圧倒的な喜怒哀楽は
ちんぽこの先っちょだけにある

肥え始めていく子房にひらは 一枚いちまい落とされていって
しがみ付き、に 縮んで残される乾片も 
腐敗の中で食み取られていく 
内がわ、蕋を上る液体は 曲がることがない熱に満ちあふれ、
伸ばされた根っこに抱かれちゃう土は
落とされた残骸の形を溶かして 練りこみ豊かに巡るんだろう
そうして僕はいつか父になる
やっぱり、握りしめてる息子と ロアルド・ダールに熱狂したり
クレーム・ダマンドを取り合ったりして
無邪気さと馬鹿にかえったりする
よく泣く君に よく笑う君に 
よく勃ち硬くなる君に。
たった今、ひき出した ばかりの
手もとでひるがえる パルプ、みたいな
ささくれた安心感を、僕たちは 空回りで塗りつける、かもしれない
ふにゃふにゃの、突起は 皮に、包まれて いる。
盛り上がる依存に 押しつけチビらせ 脹れあがった肯定を
自分の方へ と 寄りかからせ 何度も黄ばみが繰り返され、後
僕は、やはり、
殴打されるだろう
ズレることもなく ひきちぎられるまんま   
やっとね 変わることのない繰り返しに     
息子も父も同じことはない、
それぞれのちんぽこなんだと知るんだ

巡りが続いて行っちゃって 、 本当の終わりってものがなかなか
見えない重なる循環の中 、やぁがてやがて
僕の知る葉はすべて散る。
ベッドに老残の身体を沈めて 切りとられた動きに鈍く、
すっかり失う体液に僕は
無くなる僕を 。 咀嚼する
泣いた感触も角質もぜんぶ 時間に攪拌されて呆けて
今し損なった溜飲の圧、それにも 僕は、気づけない
苔生しだした樹股の水気が 接がれた幹の頬を張っていく
種子を撒き散らしていた誉れが 新緑を芽吹かせ背を立て続けて
刺し捲く根毛は地熱に明るく、求めを喝采を受けている。
僕のそばにいる みんなはね 自分自身の、を
しっかり 握りしめている、のだからね
出来たら無人の臨床が
えいびんに照らされるそんな日に 
最後に残ったティッシュのカスの こびり付きを落とすように、
僕は 
苦しみ、死んでいけたらいい 。
収縮しきった萎皺を抱いて お世話になった、玉とか掴んで
僕が 誰も泣かない、僕 だけのために 、
いちばん痛々しく死ねたらいい 。
富んだ諦観の中で 贅に燦然と 
滅するんだ 。
もうすぐ物に変わるひとときを
誰かに 始まってる今日に埋まって
やっと治癒する病にさ ざまあみろっ、て 黄色い液体
二、三滴ひっかけちゃったりしながら弱さに叫んでこっくりと 、 ね
by ayamati-hirakawa | 2010-02-11 15:34 | 喜 詩